遺留分とは、平たく言えば、遺言によっても奪うことができない相続人の取り分のことです。被相続人の死亡後における相続人の生活を保障し、また相続人間の公平を図るために認められた制度で、被相続人はいくら自分の財産だからといって、遺留分を侵してまで処分することはできないとされています。
1.遺留分の割合
遺留分は、直系尊属(つまり父母、祖父母等)だけが相続人のときは被相続人の財産の3分の1で、その他の場合(直系卑属・配偶者が相続人の場合はどんな場合でも)は2分の1です。昭和55年の改正で、配偶者の遺留分は常に2分の1とされました(1028条)。兄弟姉妹には遺留分はありません。なお、代襲相続権者にも遺留分が認められます(1044条)。
遺留分の具体例を示します。
遺産が1200万円とします。被相続人が愛人にその遺産の全部を上げる遺言をした場合
(1)被相続人に配偶者と子が3人いる場合
配偶者:1200万円×1/2×1/2=300万円
子1人あたり:1200万円×1/2×1/3=100万円(3人で300万円)
(2)被相続人に配偶者と父母がいる場合
配偶者:1200万円×1/2×2/3=400万円
父母1人あたり:1200万円×1/2×1/3×1/2=100万円(2人で200万円)
(3)被相続人に父母のみいる場合
父母1人あたり:1200万円×1/3×1/2=200万円(2人で400万円)
(4)被相続人に子3人のみいる場合
子1人あたり:1200万円×1/2×1/3=200万円(3人で600万円)
(5)被相続人に配偶者と兄弟姉妹がいる場合
配偶者:1200万円×1/2=600万円
兄弟姉妹:0円(遺留分はありません)
2.遺留分の対象財産・遺留分減殺請求権
相続開始当時、現実に被相続人に帰属していた債務を除く積極財産だけでなく、被相続人が遺留分権利者たる相続人に対して持っていた債権や遺贈した財産も含まれるほか、更に、次のものが加えられます。
(1)相続開始前1年以内の贈与――ただし、当事者双方(被相続人と受贈者)が遺留分権利者(兄弟姉妹を除く相続人)に損害を与えることを知ってなした贈与は、1年以前のものでも加算されます(1030条後段)。
(2)相続人に与えられた特別の贈与――婚姻や養子縁組、あるいは生計の資本として相続人に与えられえた贈与は時期を問わず加算されます(1044条)。
(3)不当な対価による有償行為――不当に安く不動産を売った場合などには、贈与とみなして加算されます(1039条)。
以上の贈与が遺留分を侵す場合には、遺留分権利者である相続人は、その侵される分の額についてだけ贈与を取り消すことができます。この権利を遺留分減殺請求権といいます。
なお、自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、遺留分の対象となる遺贈または贈与にあたらないとされています(最判平14・11・5 民集 第56巻8号2069頁)。
3.遺留分の金額算定方法
遺留分が問題になる場合、その遺留分の具体的な金額を算定しなければなりません。最高裁は、遺留分算定の基礎となる財産に特別受益として加えられる贈与財産が金銭である場合、相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するのが相当であるとしています(最判昭51・3・18 民集 第30巻2号111頁)。しかし、遺留分権利者が受贈者または受遺者に対し価額弁償を請求する訴訟における贈与または遺贈の目的物の価額算定の基準時は、訴訟の事実審口頭弁論終結の時であるとも述べています(最判昭51・8・30 第30巻7号768頁)。他方で、遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対して価額弁償すべき額は、譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるときは、その価額を基準として算定するとされています(最判平10・3・10 民集 第52巻2号319頁)。
また、遺留分の侵害額は、遺留分額から、遺留分権利者が相続によって得た財産額を控除し、その者の負担する相続債務額を加算して算定するとしています(最判平8・11・26 民集 第50巻10号2747頁)。
4.遺留分の行使方法
この権利は、受贈者または受遺者に対する意思表示によって行使すればよく、必ずしも裁判上の請求による必要はなく、いったん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生じます(最判昭41・7・14 民集 第20巻6号1183頁)。また、必ずしも「遺留分減殺請求」と銘打った書面によらずとも、実質的にみて、その意思表示がなされたと見られれば有効とされています。例えば、最高裁では、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合に、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解すべきであると判断しています(最判平10・6・11 民集 第52巻4号1034頁)。
しかし、一般的には、きちんと期間内に権利行使したことの証拠を残しておくため、内容証明郵便によって、減殺請求の意思表示を行ないます。
減殺請求の相手方ですが、受贈者や受遺者はもちろんのこと、包括遺贈の減殺請求については、遺言執行者に対しその意思表示をしても差し支えないとされています(大判昭13・2・26民録17-1481)。
遺留分権利者は、贈与や遺贈の履行を拒絶し、さらに、既に給付された財産の返還を請求することができます(1031条)。その順序ですが、遺留分を保全するのに必要な限度で、まず遺贈に対して行い、次に新しい贈与から順次古い贈与に対して行います(1033条~1035条)。
遺留分減殺の意思表示により、減殺すべき分が遺留分権利者に帰属することになります。贈与や遺贈を受けた人が物の引き渡しや登記手続に応じてくれなければ、最終的には訴訟を提起するしかありませんが、家庭裁判所に調停の申立てを行うこともできます。
遺留分減殺による物件返還請求調停の申立書書式はこちら。
5.価額弁償
この権利が行使されると、受贈者は現物またはそれに代わる価格を償還しなければなりません(1041条)。受贈者または受遺者は、減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還を免れることができます(最判平12・7・11 民集 第54巻6号1886頁)。この価額弁償ですが、特定物の遺贈につき履行がされた場合、受遺者が遺贈の目的の返還義務を免れるためには、価額の弁償を現実に履行するか、またはその履行の提供をしなければならず、価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りません(最判昭54・7・10 民集 第33巻5号562頁)。
6.遺留分行使の期間
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始と減殺できる贈与のあることを知ったときから1年で時効により消滅します。とても期間が短いので、注意が必要です。また、相続開始のときから10年の除斥期間によって、一切権利行使できなくなります(1042条)。
なお、受贈者が、贈与に基づいて目的物の占有を始め、民法162条の定める取得時効の期間、その占有が続いたとしても、取得時効は認められないとされています(最判平11・6・24 民集 第53巻5号918頁)。
7.遺留分の放棄
遺留分は相続開始前でも家庭裁判所の許可をえて放棄できます。
遺留分放棄の許可の申立書書式はこちら。
