消極損害

負傷期間中働けなかったために勤務先から受ける給料の支払を受けられなかった場合のように、本来増加するはずであった財産が増加しなかったという形で受けた損害を消極損害といいます。「得(う)べかりし利益の喪失」などともいわれます。消極損害には、休業損害と後遺症もしくは死亡による逸失利益があります。

1.休業損害

事故による負傷のため、収入が得られなくなったことについての損害です。休業損害が補償されるのは、最大で症状固定時までです。症状固定後は後遺障害があるのなら、それにより将来収入が得られなくなること、つまり逸失利益としての損害補償として計算されることになります。以下、どのような収入を得ていたかで場合分けして解説します。

1.給与所得者

事故前の収入を基礎として受傷によって休業したことによる現実の収入減が補償されます。なお、現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は、休業損害として認められます。また、休業中、昇給があった後は、その収入を基礎とします。賞与の減額や不支給、昇級遅延による損害も認められます。

2.事業所得者

これも、現実の収入減があった場合に認められますが、自営業者の場合、売上から経費を差し引いた差額が収入となるところ、この経費についてどう見るかという問題があります。原則、治療期間中、事業を出来なかったのであれば、経費も発生していないことになりますが、しかし、現実には、その間でも店舗の賃借料や従業員の給料などが発生し続ける場合が多いでしょう。判例は、賃借料や従業員給料などの固定費の支出については、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認めています。つまり、このような場合は、現実の収入減のみならず、これら固定費分についても、支払いを受けることができるわけです。
確定申告の額と、現実の収入が異なっている場合があります。きちんと税務申告をしていなかったわけですから、裁判でも厳しく見られるのはやむを得ません。しかし、現実の収入額をきちんと立証できれば、その額を基準として収入減を認定してくれる判例が多数あります。

3.会社役員

会社役員の場合、給与所得者と異なるのは、役員報酬は、労働の対価としての側面以外に、利益配当としての側面も有する点です。判例は、労務提供の対価部分については、休業損害として認定しますが、利益配当の実質を持つ部分については、認定には消極的です。問題は、どの部分を労務提供の対価部分とし、どの部分を利益配当部分と見るかです。判例では、会社の規模、事故前と事故後の会社の利益の変動、被害者の仕事の状況等から判断をしています。

4.家事従事者

主婦は、家事労働に従事していても、その家事労働の対価というのを金額的に算出することが困難です。そこで、主婦が被害者の場合、賃金センサス(日本の賃金に関する厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」で毎年実施されている)の女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、受傷のために家事労働に従事できなかった期間について、損害として算定します。もっとも、パートタイマー、内職等の兼業主婦については、上記で算出された金額と、現実の収入額のいずれか高い方を基礎として算出します。

5.無職者

休業損害は、現実の収入減が基本となりますので、無職者の場合は、原則として損害は認められません。しかし、労働能力および労働意欲があり、就労の蓋然性があった場合には、認められることがあります。もっとも、平均賃金よりは低い金額になることが多いと思われます。学生などで、事故によって就職活動が行えず、就職の遅れが生じた場合は、損害が認められます。

2.後遺症による逸失利益

後遺症による逸失利益とは、後遺症が残ったため、労働能力の低下が生じ、そのため、将来収入が減ることが予測される場合に、その将来収入の減額分を損害として賠償の対象とするものです。逸失利益の算定は、基礎収入に、労働能力喪失率、労働能力喪失期間を乗じて算出しますが、将来収入の減額分を、現在、一時に受領することになりますので、中間利息の控除という計算を行います。金銭は常に利息を生ずるものとして扱われますので、例えば、10年後の100万円は、その時に至るまでの利息を含んでいるものと考えられ、したがって、現在の価額を算定するには、100万円からその間の利息を差し引かなりません。その利息を中間利息といいます。利率は年5%で計算します。この中間利息控除の計算方法は、現在、実務ではライプニッツ式という計算によっています。

逸失利益の算定の基礎となる収入は、原則として事故前の現実収入を基礎としますが、様々な論点がありますので、別途詳述します(逸失利益算定上の諸問題)。

労働能力喪失率は、労働省労働基準局長通牒(昭32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考に決定します。これは後遺障害等級に応じて、労働能力喪失率を定めたものです。

労働能力喪失期間ですが、症状固定日を始期とし(ただし、未就労者は、大学卒業を前提とする場合は、大学卒業時、それ以外は18歳を始期とします)、原則67歳を終期とします。もっとも、例えば66歳の高齢者でも現に労働し、もしくは労働の可能性があるのに、67歳で打ち切りとしてしまうことは現実にそぐわない結果となりますので、高齢者が被害にあった場合は、修正計算を行わなければなりません。そこで、実務では、症状固定時から67歳までの年数が平均余命(例えば66歳の人はあと何年生存するのかという平均値です。平均寿命とは異なります。平均余命は厚生労働省が統計を取って発表しています。平成18年の簡易生命表はこちら)の2分の1より短くなる高齢者の労働能力喪失期間は、原則として平均余命の2分の1とする扱いとなっています。

以上のようにして、労働能力喪失期間を割り出しますが、後遺障害がむち打ち症の場合は、注意が必要です。むち打ち症は、症状が固定したと言っても、年月の経過によって軽快することが多く、また、慣れによって労働能力が回復することが多いので、12級のむち打ち症で5年から10年程度、14級で5年以下に制限する例が多いです。

計算方法は以下の通りとなります。

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

例えば、症状固定時の年齢が40歳で、年収400万円の男性サラリーマンが傷害を負い、後遺障害等級8級の後遺障害となった時、
400万円×0.45(※1)×14.643(※2)=2635万7400円

※1 後遺障害等級8級の労働能力喪失率45%
※2 40歳から67歳までの就労可能期間27年のライプニッツ係数

また、このサラリーマンが60歳であった場合、平均余命は20年となり、その2分の1は10年です。67歳までの7年よりも、10年の方が長いので、労働能力喪失期間は10年となり、以下の計算となります。
400万円×0.45×7.7217(※1)=1389万9060円
※1 就労期間10年のライプニッツ係数

3.死亡による逸失利益

被害者が死亡した場合、逸失利益の算定の仕方は、後遺症による逸失利益の場合と基本的には同じ考えで算出しますが、異なる点があります。当然のことですが、労働能力喪失率は100%となります。つまり、結果として労働能力喪失率は乗じないことになります。また、生活費を控除しなければなりません。すなわち、後遺症による逸失利益算定の場合は、将来収入の減額部分を算出すれば、それが損害ということになりますが、死亡の場合は、将来的にかかる被害者自身の生活費が、死亡によってかからなくなりますので、その分を差し引く必要が生じます。
生活費の控除率は、概ね、以下の通りとするのが実務上の取扱いです。

1.被害者が一家の支柱の場合

  • 被扶養者1人の場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40%
  • 被扶養者2人以上の場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30%

2.被害者が一家の支柱以外の場合

  • 被害者が女性の場合(主婦、独身、幼児を含む)・・・・・・・・・30%
  • 被害者が男性の場合(独身、幼児を含む)・・・・・・・・・・・・・・・50%

ただし、年金を受給していた場合は、年金部分の生活費控除率は通常より高くする例が多いです。

計算方法は以下の通りとなります。

基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

例えば、上記の、年収400万円の男性サラリーマンが40歳で事故にあって死亡した場合、そのサラリーマンの被扶養者が2人だった時は、
400万円×(1-0.3)×14.643=4100万0400円

死亡、後遺障害の逸失利益の計算については、実務の友というホームページで、ウェブ上の計算機を公表されていますので、ご利用されると良いと思います。